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「くやみ」 桂枝雀

  
 「しゅっしゅっしゅのしゅー」

 今のヘビーローテーション。
 大好き。


 無理は承知だし別に言う相手もいないんだけど、「あーこれ丸暗記してしゃべれたら気持ちええやろな」とまで思った噺。
 
 お悔やみに来たのに自分の炭の宣伝になってしもうた炭団屋の、これぞ浪速商人!と喝采を送りたいほどの売り文句。

 女衆はんの上品で隙の無いお悔やみ。

 枝雀師匠はどちらも鮮やかにずらずらずらぁっと言ってのけた。
 噺家として当たり前のことやろうけど、カッコええわぁと心で拍手。

 
 そこに最強キャラ・又平が登場する。


 「悔やみを言いに来たのに“のろけ”になる」という設定だけでも笑えるのに、「又はんのノロケは命がけのノロケだっせ」と言わしめる、被害者続出のすんごいのろけを引っさげてやってくる。

 最初は今まで悔やみに来た中で一番嘆いて、亡くなったご隠居はんの思い出を語っていたのに、自分のおかみさんの話になると声のトーンがいきなりデレッとしてしまう。

 そこからテンション上がりまくり、女房の可愛らしさを再現しながら、デレデレーのメロメローな壮絶なノロケが始まる。これがこっちの脳で理解している「結婚18年目の嫁」に対するノロケを遥かに超えており、異次元のノロケっちゅうか、きっと当時の客も「結婚18年経っても一緒に行水して、たらいの底を一夏4つ抜いてしまうラブラブ夫婦」をファンタジーだと思って聴いていたに違いない。


 ええなー、こんな夫婦ええなー。
 でもめちゃ迷惑やなー。


 かみさん(推定40歳前後)に「あんたは声はええことあらへんけど、節回しにどことのう粋なところがあるのん……あたし、好き……聴かして……」とせがまれて、お通夜やってる玄関先で「ちちりんとんとーん♪ちゃちゃちゃんちゃーん♪」と都都逸やりだした又はんに、CDの中の観客も私も悶絶する。

 枝雀師匠のやるアホっていわゆるギャグマンガ的な、とことんデフォルメされたアホやなぁといっつも思うが、この「天然系アホ芸」が極まれり、仕事してる時は常識人やのに、嫁はん好きで好きでおかしくなってるアホに圧倒され続ける。


 「かかが待ってるからはよ顔見せたらなあかん、ほなさいなら、ごめんー♪」


 ウキウキと帰っていった又平の後姿に


 「ええええぇぇぇーーーーーっ!」と驚愕するしかない記帳場の人。


 初回に聞いた時、彼に心から同情するほど、私の「のろけバリエーション」の在庫に全くない凄まじいノロケだった。この噺書いた人の才能と、キャラクターに命を吹き込んだ枝雀師匠の才能に、爆笑で答えることしかできない。

 
 枝雀師匠はこの噺をあれこれ工夫しながらしゃべっていたらしい。後年には途中でちょいちょいご隠居はんのこと思い出して恐縮し、でもまたズルズルとのろけになってしまう、という繰り返しをしていたそうで、そのバージョンを探しているところである。


 怒涛のノロケ攻撃で笑わせるか、押したり引いたりで笑わせるか。
 
 前者でこれだけおもろいので、手に入る全ての録音を聴きたい。
 
 
 さ、たまには「しゅっしゅしゅのしゅー」しようかしら……と思っても、ダンナのメタボ体型を思い出すだけで萎える結婚7年目。これが現実だよなぁ。

  

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