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2004.09.08

志望校からの手紙

 これは、5年ほど前にあった本当の出来事です。

 私が教えていた小6の女の子。ずっと前から行きたい中学はK女子中学だけでした。本人もですがお母さんも熱心で、学校説明会には必ず出席。複数の学校が集まる入試相談会などでも「行きたい」と学校側に意志表示をしていました。

 この年、K女子中は何だか変でした。学校見学会に来た生徒や親に校長や教頭がフレンドリーに話し掛け、「ウチの学校に入ってがんばってね」と受験希望者に声をかけるのです。さらに驚いたのは、受験生の家に手紙を送ってきたことです。「あなたが入ってくるのを待っていますよ」といった内容の手紙です。

 彼女とお母さんはもはや“合格同然”の気分です。もう1人、この学校を希望していた女の子も同様に舞い上がっていました。「わざわざ文化祭で校長先生が手招きして声をかけてくれた」「手紙が来た」と。

 これが、受験生集めに苦しむ私立がやることならわかります。しかし、K女子中は偏差値の高い名門校です。そんな学校から手紙が来て「待ってるよ」と言われたわけです。私はひどく悩みました。なぜなら彼女達の成績は、合格ラインに到達していなかったから。何を意図しているのかわからない「志望校からの手紙」に、私まで淡い期待を抱いたほどです。とにかく出来る限り鍛え上げ、「練習だから」と滑り止めにA女子中を事前に受けさせて合格通知をもらう。それから本番に臨ませる。それでもなかなか、最後まで偏差値も入試問題の点数も「余裕で合格」とは言えない状況でした。

 それなのに。滑り止め校の入学金を入れる段階になりお母さんから連絡がありました。「先生、入学金は入れません。K女子中一本で行きます」とのこと。そしてまた言うのです。「今日、K女子中の試験会場見学に行ってきました。また「○○ちゃん、がんばってね」と先生方が声をかけてくれたんですよ」と余裕たっぷり。嫌な予感はぬぐえませんでしたが、家庭の判断なので受け入れました。

 そして本番。試験は例年の通り難しく、彼女ももう1人の女の子も不合格でした。

 お母さんに電話をすると「K女子中の先生から電話がかかってきたんですよ…算数が足りなかったって。2次でもうひとがんばりしてくださいね、と言われました。先生…2次まで受ければ受かるという意味でしょうか?もともと受ける予定でしたが…」としおれています。

 でも私にできることはただ一つです。彼女達を2次試験に全力投球させるしかありません。

 もうみんな合格してはしゃいでいる中、朝から学校を休んで塾に来る彼女たちとの静かな時間…事務室に戻っては、彼女達のために無理に出勤してくれた算数の先生とため息と、不安と、K女子中の不可解な行動に「もしかしたら2次まで受ければ…」という思いと。あの長い長い時間が忘れられません。

 そして2次試験。会場は共学中を落ちた賢い女子生徒でふくらみ、倍率も難度も上がっていました。予想通りです。入試の朝、彼女達を見送ってもう祈るしかない。

 …結果は2人とも不合格でした。

 本人は思ったよりしっかりしていたのですが、お母さんがボロボロになってしまいました。出るのは愚痴と中学校への悪口ばかりです。私もあまりにも無神経な中学校の受験生集めの方法に、怒りは頂点。自分で電話するよりも会社のK女子中担当の部長に、長いメールを書きました。向こうの校長に伝えてくれ、と。彼女達がどんなにがんばって、期待を抱いていたか。そして学校側のやり方がどれだけ現場を混乱させて、子ども達を傷つけたか。

 次の日。彼女とお母さんが現れました。

「先生、入学金を入れる日は過ぎてしまったのですが、合格したA女子中に何とか入れないでしょうか。本人が行きたい、と言うんです」

 通常、入学金の締め切りを過ぎて入学を認めてもらうことは至難の技です。私はその学校に出向いてお願いに行きました。懇意にしていた入試担当者の先生がすぐに校内会議にかけてくれて、彼女はその学校に入れることに。制服を見せに来てくれたほど、彼女は吹っ切れていました。

 今も、メールが来ます。彼女はA女子中で力をつけただけでなく、高校入試にあえてチャレンジをしました。厳しいことで知られる共学高に移り、果敢に勉強をしています。そんな生徒を見るにつけ、私は中入試の失敗は失敗ではないと思わされます。プラスに転化する力を子どもは十分持っている。

 でも、この事件を思い出すたびに「2回入試に変わったので少しでも受験生を増やして(儲けて)やろうと、見込み客=受験希望者にやたら親切にした」学校側の事情が、保護者の冷静さを狂わせたことに怒りを覚えます。今はそうとしか思えません。

 子ども・親・担当者の志望校に対する切ないほどの思いを、学校側はわかって欲しい。そして、子どもが必死でしている努力を。2度とこういう事例のないことを祈ります。

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 イベント授業に関するメールありがとうございました。東京は日程と場所の問題があって、やはり出向くのは難しいかなという印象で迷っています。大阪は11月の後半に、小4向けの「くろねこ国語塾」を実施したいと思います。詳細は、また後日ここや本サイトでお知らせします。

くろねこ国語塾 http://www.kikaku-ya.net/kuroneko/


受験生の保護者の皆さん、秋は行事が多くて気が緩みがちです。でも大事な小学校の思い出なので、全力投球したいお子さんを止めないでください。大丈夫、終わったらエンジンかかりますよ!

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コメント

学校の親切な対応が子供とその母親に幻想を抱かせてしまったようですが、なぜ声をかけてもらったり、応援の手紙を受け取ったことが合格への確信になったのでしょうか?
入試というのは学力を試す場であり、学力が足りなければ
不合格になるのは当然です。学校の教師は公の職員であり、市民である受験生に丁寧な対応をとるのも当然です。むしろ喜ばしいことだと思います。

投稿: Charo 1 | 2004.09.11 16:49

>学校の教師は公の職員であり、市民である受験生に丁寧な対応をとるのも当然です。

私立中の話なんですが、まぁそれなら余計に親切なのは当然なんですけどね。

私が問題にしているのは手紙や声をかけた「内容」です。医者が「あなたの病気は治るからね」と治療も何もしないで無責任に言うのと同じようなものなんです。

趣旨をご理解いただければ幸いですm(__)m

投稿: とと | 2004.09.11 17:54

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