「東京タワー」を読む。
ベストセラーになっているリリー・フランキーの「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」を盆休みに実家で読んだ。一晩で読み、誰もがレビューに書くように泣いた。
これはまず、全ての親に読んで欲しい本だと思う。私は子どもに対する「無償の愛」というものを知らない。だから過保護な親に対して、どこか「そこまでしなくていいのに」という醒めた気持ちも持っている。しかし、この本は親の過保護を美しく肯定してくれる。
2点だけ先に厳しいことを言っておくと、過保護な中にも「人様に恥をかかせてはいけない」というオカンのしつけ、身仕舞いのよさや自分の子以外にも愛情に満ちた優しさと「我が子さえよければ」の過保護は違う。
もう1点、オカンの子育ては必ずしも社会的に「成功」と言われる結果を産んでいないということだ。リリー・フランキーは親の仕送りに甘え、自堕落な生活を送り大学を中退しそうになる。たまたま優れた才能があったから現在は成功者になっているだけで、通常はイラストや文筆の世界で成功するのは非常に稀なことであり、うっかりすればリリー・フランキーはニートにもなり得たのである。才能がある人間の幸運を、全ての親が「こんな風に育てればこうなる」という淡い期待を抱かないように、最初に打ち砕いておく。
さて、その2点を踏まえた上で、この本はやはり「親の愛」の美しさを教えてくれる。彼が大学に合格した時、「何が食べたい」とオカンに言われて「おにぎりがいい」と答えた息子の気持ち。それに何十個もの色んな種類のおにぎりで答えるオカン。私はここから涙もろい読者になってしまった。
そして最後まで、この本は息子から親への限りないラブレター。
とりあえず中学生以上は読めるだろうから、ぜひ読んで欲しい。
子どもから見たらうざくて冴えない親でも「無償の愛」があるから、君たちを追い出さずに養ってくれているんだろうと少しは気づくだろう。
小学生は、あざとい話だが最初の3分の1ぐらいからは入試に出そうな気もする。鮮やかな子ども世界の描写。私の大嫌いな「君たちのことわかってるよ」という媚を見せた気色の悪い児童文学より、よっぽど面白くリアルだ。
大人には自分の親のことを思うかもしれない。子どもがいる人は、子どもの将来を。いずれにしても「家族」について強烈に考えさせられる。実は私の父親はこの本に出てくる「オトン」とそっくりだ。そして、私は「オカン」というものに対しては非常に複雑な想いがある。
私は自分を産んだ母親には、会ったことがない。顔も写真を一枚見た記憶があるだけだ。
23歳で赤ん坊の私を押し付けられた継母は、きちんと私を育ててくれた。しかし妹が生まれ、小3で父親が会社を潰して生活が苦しくなってからはとにかく厳しく、気まぐれに手を上げるので、私は心を閉ざしていた。
それでも、やはり私の母親は彼女だけだと思っている。
血のつながりなどあてにならず、きちんとした家に育ったからと言ってまともに育たないケースもある。
ウチは波乱万丈で成金も貧乏も、短い期間に両方味わった。ここで書けないほどめちゃくちゃだったが、それでも子どもは育つ。いつまでもトラウマだの親のせいだのといい大人が責任転嫁をしていても、自分の人生は時間だけ経っていく。乗り越えるには視野を広く持って、イヤなことは忘れるかネタにして生きる図太さが必要だ。私だってぐずぐずと自分の欠点を、カワイソウな子ども時代のせいにして酔っていた時期だってある。でもそれだけでは、何も変わらないことに、ある日気がついた。
この本は思わずこんな自分の過去を書いてしまいたくなるほど、自分の親、子ども時代、そしてこれからの家族について考えさせる力がある。読み終わった後も、「無償の愛」なんて信じているわけではない。報道される虐待事件、一度も会いに来なかった産みの親、そんなことを思えば別に親子の愛情は当てにならないとも思う。それでも、この本の中にある暖かい関係は決して郷愁だけではなく、その気になればどんな家族にも作ることができると信じたい。
本を閉じたあと、初めて赤ん坊の私を手渡された23歳の若い女性を思う。
美しく絵の才能もあって、これから社会で花を開かせようとしていた矢先の恋愛。その後に突きつけられた「産んで無い子の育児」。23歳の私には、できなかったことだろうと思う。
彼女に喜んでもらえる仕事がしたい、と改めて思った。
そしてまだもう一花、咲かせてほしい。
そのためにできることは何でもしよう、と。
偉そうに教師をやって保護者に指導をしているが、私も一人の子どもに過ぎない。そんな当たり前のことを思い出させてくれる一冊だ。
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今日は堅い文体と内容ですが、力のある本なのでぜひ読んでみてください。
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